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写真とカメラにをメインに、そして時々ヘビメタや文学関係を書いています。

カズオ・イシグロだけじゃない! ハヤカワepi文庫のおすすめ小説5選

 

先日、書店に足を運んだら、カズオ・イシグロの本が売り切れになっていた。

 

ハヤカワepi文庫のファンであるが、この文庫コーナーで売り切れが出たのを見たのは初めてだ(失礼…)。

 

ハヤカワepi文庫には名著と名訳が多くある。

 

これを機に、他のハヤカワepi文庫に収められている作品を読んでもらいたいと思い、おすすめ小説を5冊紹介していく。

 

1.『すべての美しい馬』/コーマック・マッカーシー

すべての美しい馬 (ハヤカワepi文庫)

すべての美しい馬 (ハヤカワepi文庫)

 

 

コーマック・マッカーシーは、現代アメリカ文学における巨匠の一人。

 

著作のうちいくつか映画化もされ、中でも「ノーカントリー」はコーエン兄弟がメガホンを取り、アカデミー賞4冠を達成した。

 

さて、この本はコーマック・マッカーシーの「国境3部作」の1冊目にあたる。

 

物語は、主人公・ジョン・グレイディの「喪失」から始まる。

 

祖父の死、両親の離婚、そして唯一の居場所だった牧場の売却――ジョン・グレイディは、もうここには俺の居場所はないと悟る。

 

親友であるレイシー・ロリンズとともに愛馬を駆り祖国を捨て、メキシコへ越境する。

 

メキシコは忘れつつあった人と馬の生活が残る“楽園”だったが、主人公たちは思いもよらない過酷で暴力的な運命へ巻き込まれていく…。

 

これほどまでに心を揺さぶられ、しびれる小説は他にはないと思う。

 

また、「国境3部作」の2冊目『越境』と3冊目『平原の町』もつづけて読んでいただきたい(どちらもハヤカワepi文庫で刊行中)。

 

キーワード:喪失、暴力、青春、運命、荒野、放浪、国境、カウボーイ

 

 

2.『日はまた昇る』/アーネスト・ヘミングウェイ著 

日はまた昇る〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

日はまた昇る〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

 

 

アーネスト・ヘミングウェイは、代表作『老人と海』で知られ、1954年にノーベル文学賞を受賞しているアメリカの作家だ。

 

この『日はまた昇る』は初期の代表作であり、またヘミングウェイ研究者の間では彼の最高傑作であると断言する人もいる。

 

物語は第一次世界大戦後のパリを舞台に、主人公・ジェイクと、ジェイクに惹かれてはいるものの“ある理由”で彼を愛すことができない魅力的な女性のブレットを中心に物語は進む。

 

あるとき、ジェイクとその友人たち、そしてブレットと共に、スペインのパンプローナ牛追い祭りに行くことになる。

 

その7日間の狂乱的な祭りの中で、ブレットをめぐって様々な思いが交錯する――そこでブレットが取った行動とは…?!

 

最後のブレットがジェイクに言ったセリフには、読者に言葉にならない喪失感とやるせなさを味あわせるだろう。

 

スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』が好きな方は、ぜひおすすめしたい。

 

キーワード:ロスト・ジェネレーション、喪失、祭り、孤独、戦争

 

 

3.『1984年』/ジョージ・オーウェル

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

 

 

ジョージ・オーウェルは、イギリスの作家およびジャーナリストで、代表作『1984年』の他に『動物農場』がある(『動物農場』もハヤカワepi文庫にて刊行中)。

 

この『1984年』は、1949年に刊行してから非常に高い評価を受けつづけており、2002年にノルウェー・ブック・クラブ発表の「史上最高の文学100」に選ばれている。

 

物語の舞台は、架空の1984年の世界。

 

その世界は核戦争を経て、オセアニア、ユーラシア、イースタシアの3つの超大国によって分割統治されている。

 

主人公のウィンストン・スミスは、その3国のうちのオセアニアで下級役人として暮らしている。

 

オセアニアは“ビッグ・ブラザー”率いる政党による一党独裁体制で、思想、言語、風俗までありとあらゆるものが統制され、また市民を「テレスクリーン」と呼ばれるテレビと監視カメラを兼ねたデバイスで常に監視下に置いていた。

 

そんな抑圧的な体制下で、ウィンストンは党のやり方に疑問を感じながらも、その考えが明るみに出ないように神経をすり減らしながら、孤独な生活を送っていた。

 

そんな中、ウィンストンは一人の美しい女性ジュリアからラブレターをもらい、だんだんとこの世界に希望を持ち始めるが、彼が待ち受けていたのは…。

 

読んでいて一番驚いたのは、この本が1949年に刊行していながら現在の世界を予言しているのではないか、と思ってしまうほど実に先見の明に優れた内容だったことだ。

 

ジョージ・オーウェルは義憤に駆られて、自らスペイン内戦に参加した経験を持ち、いかに人間の作り上げたシステムが愚かで脆弱であるかを見抜いていた。

 

ある意味、この本は我われに対する警告なのかもしれない。

 

キーワード:ディストピア全体主義、自由、個人の尊厳、システム、二重思考

 

 

4.『愛のゆくえ』/リチャード・ブローティガン

愛のゆくえ (ハヤカワepi文庫)

愛のゆくえ (ハヤカワepi文庫)

 

 

リチャード・ブローティガンは、アメリカの詩人および作家である。

 

代表作に『アメリカの鱒釣り』や『西瓜糖の日々』がある。

 

リチャード・ブローティガンの小説はどれもぶっ飛んでおり、読後の感想としては「すごい!」の一言しか言い表せない。

 

物語の主人公は、図書館に住み込みで働く「私」。

 

この図書館は普通の図書館とは違い、人々が自分で書いて持ち込んだ本を納めているという一風変わった図書館である。

 

ある日、この図書館に絶世の美女のヴァイダが本を持ち込んでくる。

 

「私」はヴァイダと恋に落ち、一緒に図書館で暮らすことになる。

 

そして彼女は妊娠するが、メキシコに行って中絶をすると言い出す。

 

「私」はそれを受け入れ、彼女と一緒にメキシコへ旅をする。

 

原題は“The Abortion”つまり「堕胎」であり、大変重々しいテーマであるが、ブローティガンの幻想的な世界では、それが不思議とコミカルかつユーモアに展開されていく。

 

これを読めば、ブローティガン中毒者になること間違いなし!

 

キーワード:性、中絶、生と死、倫理、幻想

 

 

5.『恥辱』/J.M.クッツェー

恥辱 (ハヤカワepi文庫)

恥辱 (ハヤカワepi文庫)

 

 

J.M.クッツェーは、南アフリカ出身の作家で、2003年にノーベル文学賞を受賞した。

 

受賞理由は、「アウトサイダーが巻き込まれていくさまを、無数の手法を用いながら意表をついた物語によって描いたこと」である。

 

そして本作『恥辱』の主人公もある意味アウトサイダーなのである。

 

主人公であるケープ・タウン大学教授デイヴィッド・ルーリーは離婚して以来、娼婦や手近な女性で自分の欲望をうまく処理してきたが、学生に手を出してしまったことがきっかけで、セクハラを理由に職を辞することになってしまう。

 

その後、デイヴィッドは娘が運営している農園へ身を隠すが、そこでは更なる「恥辱」が彼を待ち受けていた…。

 

このデイヴィッドは本当に救いようのないただのエロオヤジなのだが、読み進めていくうちに何だか憎めないように思えてくる。

 

そしてこのエロオヤジを通して、アパルトヘイト後の南アフリカを生きる苦悩を味わうことができる一冊。

 

キーワード:セクハラ、転落、アパルトヘイト、情けない男